再発の不安と向き合えない

がんと他の病気の違いは、「死」を明らかに意識するかどうかという点・また、治療が終わっても経過観察というものが数年間続くという点です。
一通りの治療が終わって、もう「病気」という意識からは離れたいのに、ほとんどの場合約5年間も経過観察を必要とされます。

そのために明らかに「自分は病気を克服した」「健康体になった」と思い切れない苦しさが付きまといます。

時折でてくる不安に目をそむけないで・・・。
悪いことを考えていたら、悪いことが起こる。良いことだけ考えていたら良いことが起こる。だから、
もしも再発したら・・などというネガティブな思考をしてはいけない・・という考え方をする方もいらっしゃいます。

ですから、「再発」「転移」という言葉・イメージがふと沸き起こると「ダメダメ・・・そんなこと考えたらだめ!」と違う方向を見ようとします。
再発・転移の思いとは違う方向を見るのは、大切です。
ネガティブな思いにエネルギーを注ぎ込む必要はありません。
(違う方向を見ながらも再発防止のために生活上の工夫をすることは必須ですし、完全に病気のことを忘れて養生をしないというのとは違います)

ただ違う方向を見る時に、不安や恐れのために目をそむけているのか、今自分が生活を楽しんでいるから、
そこに(再発のこと)かまっている暇はない・・という感覚で気にしないのかは、大きな違いです。

ふと浮かび上がる不安に、「この感情はまちがっている」とばかりに感じなかったフリをするのは、自分の感情を心の奥深くに押しこむだけです。

バネと同じ原理で、力を加えれば加えるほど、そのエネルギーは蓄えられて、必ず跳ね返ってきます。

一方で、自分の好きなことをするとか、病気からのメッセージによって自分の生き方を変えたような場合は、
再発などの不安がよぎったとしても、「その時はその時か・・・」と思えます。

確定していない未来のことを思う時間と、今楽しんでいる時間とを比べて、先の不安にエネルギーをそそぐことがもったいないと心から思えるからです。

ですから、再発するかも・・という不安で心が押しつぶされるように思うことも、私が再発することはない!と無理やり自分に言い聞かす必要もありません。

たとえば、このような例があります。
がんに罹り、治療を終えたある方は、ゆっくりと過ごすより、仕事をしていると気が紛れるからいいと思い、職場に復帰しました。

いろいろなことを思い悩む・考えすぎるタイプの方は、何かしている方がいいのは確かです。
身体を動かすことや、人と話しをすることで得られるメリットもたくさんあります。

この「仕事をする」という事象は同じでも、動機が不安を消すために行っているのか、前向きに生きていくために行っているのかの違いは大きいのです。

たしかに、仕事をして忙しくしていれば、病気のこと・再発のこと・・
考える時間がなくなるので、いいように思います。
でも、心の奥底で不安が渦巻いているのなら、その思いは凝縮されて違った形で浮かび上がるかもしれません。

でも、その仕事を通じて、何かの役に立ちたい・これをするのが好きとか、
仕事という時間で自分のエネルギーが昇華されているという感覚を持てるのなら、不安という感情が沸いてもそれは、
すっと消えていってくれます。

つまり自分の意識から「不安」というものが消える時、意識上にのぼらないほど押しこんでいる場合と、
自然に溶けて感じなくなった場合があるということです。

不安が押し寄せた時どうすればいいのか・・・
一つは、不安を認めることです。
「そんな風に思ったらダメ!」ではなく、「不安だよねー」と声に出すでもいいし、心の中で思うのでもいいので、そう自分に語ってあげましょう。
「不安に思ってもいいよ」「不安なのは当然だよ」と認めてあげるのです。

もう一つは、不安を深堀りするのです。
漠然と不安を感じるのではなく、何が困るのか・何が嫌なのかを見つめていきます。

再発してまた治療が始まることが嫌なら、そのことで自分に何の不利益があると思っているのか・・・。
身体の苦痛なのか、経済的なことなのか、家族や社会に迷惑をかけてしまうことなのか、もう治らないことにつながると思っているのか・・

そして、そのテーマがわかれば、それは本当に事実なのか、あるいは自分がそう思い込んでいるだけなのか。
自分になんとかできることなのか、自分にはコントロールできないことなのか。
このように、感情的にならずに自分の思い込みを見つめていくのです。
たとえば今から心配しても仕方がないこと・・・なら、その時に心配しよう~と思う。
知りたいと思うことがあれば、その情報を提供してくれる人に相談してみようとする。
もし、迷惑をかけることがつらいのであれば、「本当に迷惑だろうか?」と自分の決めつけを一旦手放してみる。

このように、がんという疾患は、長い期間にわたっていろいろなことに向き合わなければいけないという側面があります。
それをやっかいだ・煩わしいと思うこともあるでしょうが、見方によっては、
自分の内面や人との関係性や生き方を見直すきっかけになることも多々あります。

むしろ、私はそのきっかけのためにこの病気が必要になる人が多いのではないかと考えています。

そう考えると「不安」はネガティブな感情ではなく、もっといろいろなことをわかってほしいという自分からのメッセージだとも言えます。

まとめると「不安」や「恐れ」といった感情を持っても、それはネガティブなもので感じない方がよいということはありません。

その不安を引き起こした、自分の根っこの思いこそが大切にされたいと感じている、本当の自分の思いです。

その部分は自分にしか答えは見えません。本当の自分の思いが浮かび上がるまで「不安」はちょくちょくと顔を出すでしょう。
その時に、「私は何が不安に思っているのだろうか?」と自分に質問を投げかけてください。

その時に答えは見つからないかもしれませんが、生活を送る中で気づきが起こる瞬間があります。

それとともに、「不安」が沸き起こった時に、逃げ出したい・胸がつぶれそうになるなど、押しつぶされそうな感覚ではなく、
不安が消えてなくなるまで、そっとしておこう・・といった余裕のある対応ができるようになってくるでしょう。

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